<事案の概要>
本件は、原告が、被告に対し、原告が警察官に逮捕された際の状況が撮影された「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」と題する動画(以下「本件逮捕動画」という。)を被告がインターネット上の動画投稿サイト「YouTube」(以下、単に「YouTube」という。)に投稿したことにより、名誉権、肖像権及びプライバシー権を侵害されたと主張して、不法行為に基づき損害賠償請求をなした事案である。
<判旨(著作物の引用について)>
「一審被告は、前記第2の4⑴イの(ア)とおり、①量的、質的な考慮、引用の目的に鑑みれば、原告動画1は、本件逮捕動画を正当な範囲を逸脱して引用しており、また、②原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠いているから、著作権法32条1項に規定する「引用」に当たらない旨主張する。
しかし、原告動画1を投稿した目的は、一審被告がモザイクや音声の加工等を施すことなく、一審原告の容ぼう等をそのままさらす体裁で本件逮捕動画がYouTube に投稿されたことにより被害を受けたことを明らかにするものであり、その目的のために、一審原告が受けた被害そのものである本件逮捕動画を動画として引用することが最も直接的かつ有効な手段であるといえることは、引用に係る原判決の第4の5⑶イ及びウのとおりであるから、質的、量的な面や引用の目的からして、正当な範囲を逸脱している旨の一審被告の主張は理由がない。
また、上記②については、本件における一連の経緯及び上記投稿目的に照らせば、仮に、原告動画1に、本件逮捕動画との明瞭区別性、主従関係を欠く面があったとしても、そのことにより引用の相当性が否定されるものと理解すべきではないし、原告動画1は、冒頭において、本件逮捕動画を引用する目的についてテロップで紹介した後、「当動画はYouTuber【A】さんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です」と表示された状態で本件状況が映り、その後、今後の削除処理や過去の申立内容等を公開していきたいというテロップが表示されているから、原告動画1と本件逮捕動画を明確に区別することができるものであり、また、引用の目的に照らして過剰に引用するものともいえないから、そもそも、原告動画1は、本件逮捕動画と明瞭区別性、主従関係を欠くものとはいえない。したがって、一審被告の上記主張は、いずれにしても理由がない。」
<若干の考察>
この裁判例は、著作権法32条1項の「引用」について、明瞭区別性や主従関係を欠く面があっても、「引用」が認めらえる場合があることを明らかにした点で意味がある。引用することが最も直接的かつ有効な手段であることが明瞭区別性や主従関係を欠く面があっても「引用」が認められる一つの要素であると考えることができるのではないだろうか。