<事案の概要>
本件は、原告が、
①被告トーセが、原告が著作権を有する著作物である別紙著作物目録記載の動画(以下「本件各動画」という。)を使用して、Xとの名称のゲームソフト(以下「本件ソフト」という。)並びにその派生作品であるY及びZ(以下、順次、「本件派生ソフト1」、「本件派生ソフト2」といい、これらを併せて「本件各派生ソフト」という。)を開発又は製作し、これらのソフトに係る権利を被告バンダイナムコに譲渡して、被告バンダイナムコが本件ソフト及び本件各派生ソフトを販売したことにより、被告らが、共同して原告の本件各動画に係る頒布権を侵害し、また、それにより利益を得て、
②被告トーセが、原告が作成した、戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等(以下「本件成果物」という。)を原告に無断で利用して、本件ソフト及び本件各派生ソフトを製作し、これらを被告バンダイナムコに譲渡することにより、利益を得て、
③被告トーセが、本件ソフトのエンディングクレジットに原告の氏名を表示せず、本件各動画に係る著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張した事案です。
<原被告間の業務委託契約の条項>
「 (4) 原告の退社及び被告トーセとの業務委託契約(甲3)
原告は、平成21年5月31日、被告トーセを退職し、同年6月1日、被告トーセとの間で、以下の条項(ただし、下記の「甲」は被告トーセを、「乙」は原告を示すものである。)を含む業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結した。
ア 第1条(目的)
「(1) 甲は、1.コンピューターソフトの開発業務 2.コンピューターソフトの企画業務(以下「本件業務」という。)を乙に委託する。…」
イ 第2条(製作)
「乙は、甲からそのつど個別に発行される発注書の仕様、日程等に従って本件業務を行わなければならない。ただし、甲は、都合により発注書に定める仕様変更の申し入れをすることができる。」
ウ 第3条(機材その他の貸与)
「(1) 本件業務の遂行のために必要な設備、機器、機材は、乙が自らこれを準備するものとし、乙が甲の事業場内に自己の使用機材等を搬入する場合には甲の許可を得るものとする。…」
エ 第4条(作業場所等)
「(1) 乙は本件業務を甲の事業所内で行うものとする。甲の事業所外で本件業務を行う必要のある場合には、本件業務の作業所は甲・乙協議のうえ決定する。」
オ 第5条(納入)
「(1) 乙は、甲からそのつど個別に発行される発注書の定める納期に本件業務の成果物を甲の指定する場所に納入する。」
カ 第7条(著作権及び著作者人格権)
「(1) 成果物(成果物がコンピューターソフトのプログラムである場合にはソースコード及びオブジェクトコードを含む)並びにその関連資料とテスト結果報告書の著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)その他一切の知的財産権及び成果物の所有権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって乙から甲へ移転する。
(2) 甲は、譲り受けた著作権その他の権利に基づき成果物の複製、販売、ライセンス、他機種への移植その他成果物に関する一切の利用を独占的になし得る。
(3) 乙は、成果物の著作者人格権を甲及び甲の指定する第三者に対する関係で放棄し、甲による本件プログラムの著作権の行使及び甲の著作権に基づく第三者による権利の行使に対し、著作者人格権を含む一切の権利を主張しない。」
キ 第8条(対価)
「(1) 甲は乙に対し、発注書に定める作業委託料を支払う。
(2) 前項の委託料は、毎月末日までに納入された成果物を甲の規準で集計、評価し、翌月末日までに下記の乙が指定する銀行口座に振込送金して支払うものとする。…」」
<判決の要旨>
★契約書の読み方
「 原告と被告トーセは、平成21年6月1日、本件業務委託契約を締結し、同契約第7条において、同契約に基づき原告が製作した成果物及びその関連資料等の著作権等は、同契約第5条に規定する成果物の引渡し完了をもって原告から被告トーセに移転する旨合意した。
上記第5条の「納入」の対象物は「成果物(…)並びにその関連資料」と規定され、本件業務委託契約において、その対象物の意義を限定的に解釈すべきことをうかがわせる規定もないことから、受託した業務の完成、未完成に関わらず、原告が同契約に基づいて発注を受けて製作したもの全てを意味すると解するのが合理的である。そうすると、製作途中のデータや資料についても同契約第7条の「成果物(…)並びにその関連資料」に含まれると解するのが相当である。
また、本件業務委託契約第5条においては、「成果物を甲の指定する場所に納入する。」とのみ規定され、具体的な納入場所は規定されていないところ、弁論の全趣旨によれば、被告トーセにおいては、成果物の納入場所はデータ共有サーバと指定されていたものの、未完成の成果物を被告トーセが貸与したパソコンに収納したままの状態でパソコンの返却を受けることも許容されていたと認められるから、成果物に係るデータをデータ共有サーバにアップロード又はパソコン内に格納して同パソコンを被告トーセに引き渡すことも、同契約第7条の「第5条に規定する成果物の引渡」に含まれると解するのが相当である。
そして、原告の主張によれば、原告は、本件業務委託契約を解消する際、本件各動画又はその一部のデータを含む、自身が作業をして製作したデータ等を、自身が使用していたパソコン内に格納して、同パソコンを被告トーセに引き渡し、又は開発スタッフの作業用のデータ共有サーバに保管したというのであるから、本件各動画については、原告から被告トーセに対する、「第5条に規定する成果物の引渡」がされたと解するのが相当である。
以上によれば、本件各動画の著作権は、本件業務委託契約の効力により、被告トーセに帰属したと認められる。」
★その他(著作権法29条1項)の解釈
「著作権法29条1項は、映画の著作物の著作権について、著作者が映画製作者に参加約束をすることにより、当該映画製作者に帰属する旨を規定しているところ、同項は、著作者の映画製作者に対する参加約束があれば、法律上当然に著作権が映画製作者に移転する効果が生じることを定めたものであり、意思表示により著作権が移転するとの効果を定めたものではない。そして、著作者が映画製作に参加する場合、必ずしも映画製作者との間で参加に係る契約を締結するとは限らず、著作者が所属する法人と映画製作者との間で契約が締結されたり、映画製作者と第三者との間で契約が締結され、更に当該第三者と著作者との間で契約が締結されたりして、著作者が映画の製作に参加するような場合もあり得ると考えられ、そのような場合に参加約束を認めなければ、同項が設けられた意味がなくなるというべきである。したがって、同条における参加約束は、映画製作者に対して必ずしも直接される必要はなく、映画の製作に参加しているという認識の下、実際に映画の製作に参加して、その製作が行われれば、著作者が映画製作者に対して映画製作への参加意思を表示し、映画製作者もこれを承認したといえ、黙示の参加約束があったと認めることができる」
<若干の考察>
契約書の作成の観点からは、裁判例で争われた様な点に関して疑義が生じないように、予め契約書において定めるべきであるということになりますので、その参考にして頂ければと思います。