<事案の概要>
被告が運営する電子商取引サイトにおいて、原告は、充電式モバイルバッテリーを購入した。その後、当該バッテリーが発火し原告に損害が生じた。
そこで、原告は、被告に対して、第一次的に、当該サイトの利用を目的とする契約に基づく債務の不履行に基づき損害賠償請求、第二次的に、不法行為に基づく慰謝料請求、第三次的に、被告が商法14条又は会社法9条の類推適用により上記バッテリーの販売者と連帯して債務不履行責任を負うとして、同責任に基づき、第一次的請求と同内容の支払を求めた。
その中で、原告は、「被告が、本件ウェブサイトにおける取引から利益を得ていることなどから、同取引から生ずる危険も負担すべきであり、消費者が安心、安全に取引できるシステムを構築する信義則上の義務を負う」と主張し、その義務の中には、「出店・出品審査義務が含まれる」と主張した。
<判旨>
①出店・出品審査義務
「原告は、上記アの主張の根拠として、消費者委員会内に設けられたオンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会が作成した報告書(甲10。以下「本件報告書」という。)を挙げる。しかし、本件報告書は、そもそも作成されたのが平成31年4月と本件売買契約から約2年10か月も後である上、その内容も、プラットフォーム事業者の出店・出品審査の関係では、利用者の安心、安全に向けた「提言」としてのものであり、直ちに上記アの主張の裏付けとなるものではない。
また、原告は、本件バッテリーを含むリチウムイオンバッテリーについて、本件売買契約当時、事故が年々増加していた一方、安全性を保証する認証等の制度が複数存在したことを上記アの主張の根拠として挙げる。しかし、原告が指摘するリチウムイオンバッテリーに関する認証等の制度は、いずれも、平成28年の本件売買契約当時、同バッテリーを搭載する製品の製造・販売を行う業者について取得が法律上義務付けられていたものではない(乙4参照)。したがって、上記制度の存在をもって、上記当時、被告にリチウムイオンバッテリー搭載製品の出品につき原告が主張するような審査義務があったと認めることはできない。」
②保険・補償制度構築義務違反について
また、「原告は、被告が負うべき消費者が安心、安全に取引できるシステムを構築する義務の具体的内容として、保険・補償制度構築義務も主張し、その根拠として、本件報告書を挙げる。しかし、上記⑵イで説示したところと同様の理由により、本件報告書は上記主張の裏付けとなり得ない。のみならず、本件報告書中の保険・補償制度に係る提言は、インターネット取引に関するアンケート調査の結果、プラットフォーム事業者において行ってほしいサービスとして、詐欺に遭った場合の返金、消費者トラブルにあった場合の補償を求める回答が約1割程度見られたことを受けたものであるから(本件報告書62~63頁)、一定の場合に代金の一部又は全部を返金するという被告が採用済みの「マーケットプレイス保証制度」は、上記提言に沿ったものと認められるとともに、いずれにせよ、原告が主張するような保険・補償制度の構築をプラットフォーム事業者に義務付ける趣旨のものとは認められない。」
<若干の解説>
本件において原告が購入したバッテリーの販売者は中国法人であった。そのため、そもそも日本法の適用があるのかが前提として問題となる。この点、日本の法適用通則法により、消費者は日本法による保護を受けられるし,日本の裁判所に訴えを提起することもできる。もっとも、実際に、外国企業を相手取ることは、手間であるので、できればプラットフォーム事業者に対して責任追及をしたいというのが本音のところである。
経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」によると、「店舗との取引で損害を受けたインターネットショッピングモール(以下「モール」という。)の利用者に対してモール運営者が責任を負う場合があるか」との議論について、「場」を提供しているだけのモール運営者は、個別の店舗との取引によって生じた損害について、原則として責任を負うことはないとの結論が示されている。もっとも、例外的な場合として、「①店舗による営業をモール運営者自身による営業とモール利用者が誤って判断するのもやむを得ない 外観が存在し(外観の存在)、②その外観が存在することについてモール運営者に責任があり(帰責事由)、③モール利用者が重大な過失無しに営業主を誤って判断して取引をした(相手方の善意 無重過失)場合には」、商法第14条又は会社法第9条の類推適用によりモール運営者が責任を負う場合もあり得るとする。
しかしながら、プラットフォーム事業者の場合には、その仕組みを提供するだけであり、その仕組みを売り手と買い手が利用しているという構造を理解している場合が大半であろうから(特にAmazonなどの場合)、先の①外観の存在の要件が欠けるか又は③の相手方の善意・無過失が欠けるため、救済はされないものと思われる。もちろん、先の準則が「モール運営者に不法行為責任等を認め得る特段 の事情がある場合等には、モール運営者が責任を負う場合があり得る」としていることからすれば、他の方法により責任追及が可能になる場合もあるが狭き門であると思われる。