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最高裁令和4年6月24日判決(最高裁がツイッター社に対する削除請求を認めた例)

日経新聞をはじめとして、各種新聞に掲載された最高裁判所のツイッター社に対する削除請求を認めた例について、紹介します。

 

<事例>

①Aさんは、平成24年4月、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入したとの被疑事実で逮捕された。Aさんは、同年5月、建造物侵入罪により罰金刑に処せられ、 同月、その罰金を納付した。

②Aが①の被疑事実で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は、 逮捕当日に報道され、その記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載された。

③同日、ツイッター上の氏名不詳者らのアカウントにおいて、本件各ツイートがされた。本件各ツイートは、いずれも上記の報道記事の一部を転載して本件事実を摘 示するものであり、そのうちの一つを除き、その転載された報道記事のウェブページへのリンクが設定されたものであった。なお、報道機関のウェブサイトにおい て、本件各ツイートに転載された報道記事はいずれも既に削除されている。

④Aさんは、逮捕の時点では会社員であったが、現在は、その父が営む 事業の手伝いをするなどして生活している。また、Aさんは、逮捕の数年後に 婚姻したが、配偶者に対して本件事実を伝えていない。

⑤ツイッターは、世界中で極めて多数の人々が利用しており、膨大な数のツイ ートが投稿されている。ツイッターには、利用者の入力した条件に合致するツイー トを検索する機能が備えられており、利用者が上告人の氏名を条件としてツイート を検索すると、検索結果として本件各ツイートが表示される。

このような状況下において、Aさんはツイッター社に対して削除を求めました。

 

<判決要旨>

① 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護 の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権 に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき 侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される。

 

② そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、Aさんが、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイートを一般の閲覧に供し続けるツイッター社に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、<A本件事実の性質及び内容B本件各ツイートによ って本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度C上告人の社会的地位や影響力D本件各ツイートの目的や意義E本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、>Aさんの本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイ ートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもの で、その結果、Aさんの本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般 の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。

原審は、上告人が被上告人に対して本件各 ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、 そのように解することはできない。

 

③ 本件事実は、他人にみだりに知られたくないAさんのプライバシーに属する事実である。他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。

しかし、Aさんの逮捕から 原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力 を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。また、本件各ツイートは、Aさんの逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い。

さらに、膨大な数に上るツイートの 中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないもの の、Aさんの氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイー トが表示されるのであるから、本件事実を知らないAさんと面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない。

加えて、Aさんは、その父が営む事 業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない。

 

<結論>

以上の諸事情に照らすと、Aさんの本件事実を公表されない法的利益が本件各ツ イートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。したがって、Aさんは、ツイッター社に対し、本件各ツイートの削除を求めることができる。

 

<若干の解説>

本件判例は、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護に値するかどうかについて、判示に現れた諸般の事情を考慮し、公表されない利益が一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には少なくとも削除に値すると判断するとしたものであり、同種の裁判に大いに影響を与えるものと考えられます。

特に、「原審は、上告人が被上告人に対して本件各 ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、 そのように解することはできない。」とした部分については、法的利益の優越性が明白であることまでを要求しないことを示しており、大変興味深い点です。この点は昨今のIT事情を考慮して柔軟に判断をする必要性が裁判所においても認識が高まったことを意味するのではないでしょうか。

この判例については、他の弁護士や法学者等によりさらに研究が重ねられると思いますので、他の方の評価も待ちたいと思います。

 

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