<事案>
原告会社が、被告会社に対し、ウェブサイトのシステム開発業務委託契約(本件委託契約)に基づき、報酬金等の支払を求めたところ、被告会社が、原告会社に対し、本件委託契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。請負契約の性質を有する本件委託契約に係る仕事の完成を認めた上で、原告会社の主張する報酬増額合意の成立を否定し,当初の合意金額の限度で請求を認容し,他方で,基幹システムの設定間違い及びレポート開発の不備について原告会社の不完全履行を認めました。もっとも、本件キャンペーンサイトを当初リリース日に公開することができず再リリース日になってようやく公開にこぎ着けたという本件委託契約に係る履行遅滞については原告会社の責めに帰することができないとしました。
<着目する争点>
システム開発業務委託契約においては,開発業務を進めながら互いに協議をして,決定をしていくということもあり,また,スケジュールも極めてタイトなものになりがちです。その際に,システム開発業務に遅れが生じた場合にシステム開発を委託する側と委託される側のどちらが責任を負うのかが問題になることがあります。そこで,今回の裁判例は,一つの事案に対する判断ではあるものの,参考になるので,紹介します。
<判旨>
本件キャンペーンサイトが当初リリース日に公開することができず,それが再リリース日にずれ込んだことについては,① 元々日程が過密であったこと,② それにもかかわらず,当初予定されていなかった事前登録機能の追加及びティザーサイトの公開が追加されたこと(ディレクターである被告は,GDC又は日本KFCなどに対し,このような機能を追加すれば当初リリース日に公開が間に合わなくなるおそれがることを忠告することも可能であった。),③ ボトラがデザインの入ったHTMLファイルを原告に対して交付するのが遅れたこと,④ ディレクターである被告が本件プロジェクトの進行管理を十分に行わなかったこと,⑤ 原告とボトラとの間,原告とデータジェーピーとの間など,本件プロジェクトについて役割分担をした者同士の間で十分な意思の疎通が図れておらず,このような意思の統一をすることはディレクターである被告の役割であったこと,⑥ 過密な日程がさらに押したものとなり,原告は当初リリース日の公開予定時刻の1時間前にもなお修正作業を続け,公開前のテストを行う時間もなかったこと,⑦ 原告はこのように時間に追われ,平成25年11月13日以降,24時間体制で開発作業を続けた結果(認定事実(11)),文字化けのような凡ミスが出ることとなった。
このように考えると,文字化け,レアクーポンの出現割合の設定ミス及びレポート出力の不備など個別の不具合については原告が債務不履行責任を負うということができるとしても,本件キャンペーンサイトを当初リリース日に公開することができず再リリース日になってようやく公開にこぎ着けたという本件委託契約に係る履行遅滞について,原告の責めに帰することができない(なお,原告は,原告の債務は解除条件付きであり,解除条件が成就している旨も主張するが,本件委託契約に係る原告の債務が解除条件付きであったと認めることができない。)。
そうすると,原告が本件委託契約に係る履行遅滞責任を負う旨の被告の主張は理由がない。
<若干の解説>
本件では,詳細な事実認定をしたあとで,文字化けやレアクーポンの出現割合の設定ミス等々の責任が原告にあるとしても,納期までのスケジュールを決定し,管理するのは被告でした。スケジュールに関しては被告が最も熟知し,かつ,管理をしていたため,被告において,機能の追加による納期への影響や納期を守らせるために,原告らに対して被告がどのような指示や行動をしなければならないのかなどを十分に認識したにもかかわらず,それができなかったために納期に遅れたとすれば,その責任を負うべきは原告であるという判断と言えます。ただ,先に述べたとおり,文字化け等々のミスの責任が原告にあるとしていることからも,瑕疵毎,契約不適合毎にその因果関係を確認してその責任が誰に帰属するのかを決した判断と見ることもできるでしょう。