トラブル&紛争の 解決・防止事案集


システム開発の仕事の完成と追加工事(東京地裁平成25年9月30日判決)

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<事件の概要>

本件は,原告が,①被告から株式会社a(以下「a社」という。)が開設するウェブサイトのシステム開発に係る業務を請け負ったところ,被告が請負残代金を支払わない(本契約),②被告から上記システムにつき追加の開発業務を請け負ったところ,被告が請負代金を支払わない(追加契約),③仮に,上記追加開発契約が成立していないとしても,被告は,商法512条に基づき,相当な報酬を支払うべき義務があるなどと主張して,被告に対して提訴した事案である。

 

<仕事の完成があるか、それにより残代金請求が認められるか>

 請負契約に基づき報酬を請求するには,仕事を完成している必要があるところ,請負人が仕事を完成させたか否かは,請負人が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで仕事を終えているか否かを基準として判断するのが相当である。
これを本件についてみると,本件個別契約の業務の内容は,設計,プログラムの作成,テスト,ドキュメントの作成をした上で,これらを納品することであるところ,原告は,本件プログラム一式及び成果文書を完成させた上,納品しており,本件プログラム一式に対しては被告も本件検収確認書を発行したことが認められる上,成果文書に関しても,被告は,納品を受けてから20営業日以内に検査結果の通知を行っていないと認められるから(弁論の全趣旨),本件基本契約14条4項により,納品日である9月30日をもって検査に合格したこととなる。
したがって,原告は,本件個別契約で予定された最後の工程まで終えたものであり,仕事を完成させたと認められる
(2) これに対し,被告は,本件プログラム一式には本件各不具合(別紙2の1,2の2)が存在すること,成果文書については,9月29日に納品されていないし,仮に納品されているとしても不具合が存在すること,したがって,原告は,本件個別契約に基づく仕事を完成させていないことをそれぞれ主張する。
しかし,上記不具合のうち,瑕疵をいう部分については,仮に瑕疵があったとしても,前記説示に係る「仕事の完成」の意義に照らせば,仕事の完成を障害する事由にはなり得ない。また,未完成をいう部分については,前記認定のとおり,本件要望管理一覧表では,365項目に上るa社らの要望等が取り扱われたが,その中で対応未了とされているものには,本件各不具合のうち機能未実装とされるものについて指摘したものは含まれていない上,仮に被告が主張するように多数の未完成部分があったとすれば,そもそも,被告が,本件プログラム一式について,未完成部分があることを原告に通知することなく,検収合格とすることや,本件システムが,7月6日以降,a社において稼働することなどはあり得ないというべきであるばかりか,被告が原告に対し,同月8日に本件個別契約に係る請求書の再発行を依頼した上,9月1日には,a社からの支払がないことを理由に本件個別契約に基づく請負残代金の支払の猶予を申し入れることなども考え難い。さらに,前記認定のとおり,成果文書は,9月30日に被告に対して納品されたものと認められるし(甲22,証人E),上記説示のとおり成果文書に不具合があったとしても,「仕事の完成」を妨げる事由にはなり得ない上,仮に上記不具合があったとすれば,被告が原告に対し,その不具合を通知しないまま,20営業日の経過により,検収合格としてしまうことも通常ではあり得ないことというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(3) 確かに,本件システムには,本件個別契約で実装が予定されていたもののうち,本件各未実装機能が実装されていなかったことが認められる。
しかし,上記認定のとおり,本件システムについては,二次開発,三次開発が予定されていたこと,画面設計書管理画面機能等を作成したJは,4月頃に被告を退社したこと,Iが,Cに対し,6月1日,本件各未実装機能の仕様について確認を求めたにもかかわらず,被告はこれに応答しなかったこと,Fは,Iに対し,8月2日の時点で,本件システムには未実装の機能があるが,これは,b社に発注するので,a社,被告及びIで要件定義を策定したいなどという内容のメールを送信していること,本件各未実装機能の全機能に占める割合はごくわずかであること,被告は,本件プログラム一式について検収合格としていることなどからすると,原告と被告は,遅くとも本件プログラム一式の納品がされた時点において,本件各未実装機能については,二次開発以降に実装することを黙示的に合意していたものと認めるのが相当である。したがって,本件各未実装機能の存在をもって,本件プログラム一式が未完成であるということはできない。
(4) そうすると,前記認定事実によれば,本件個別契約におけるソフトウェアに当たる本件プログラム一式が6月30日をもって検収に合格するとともに,原告が,被告に対し,本件個別契約の残金632万6250円について,5月31日付けと6月30日付けの各請求書を送付し,Eはこれを踏まえて原告担当者に7月末日の支払を約したのであるから,本件個別契約の請負残代金債権は,同日を支払期限として発生したということになる

<追加開発契約に基づく追加代金請求が認めらえるか。>

まず,本件開発(6月期),本件開発(7月期)及び本件開発(その他)について検討する。
前記認定のとおり,Iと被告担当者のCとの間では,a社から提出された多数の要望等について,本件個別契約見積書の範囲内か否かについて認識を共通化しつつ,その範囲外であるものについては別途報酬の支払を予定して,本件要望管理一覧表に「見積想定」欄と「追加工数」欄を追加して共有していたのであるから,本件要望管理一覧表のうち,上記「見積想定」欄に「外」と記載され,かつIが対応のため作業等を行って「対応」欄に「済」と記載された要望項目に対してIが行った本件開発(6月期)及び本件開発(7月期)については,Cと原告との間で,本件個別契約の範囲外の追加開発であるとの認識を共有していたものと認められる。
また,本件開発(その他)については,前記認定のとおり,Cが,当初の仕様から漏れていることを前提としてIに開発作業を依頼し,その項目や工数等につき本件個別契約の見積外の追加作業である旨を明示した本件追加作業一覧表をIが作成することによって,Iと情報を共有していたのであり,これについても,原告とCがともに追加作業と認識していたことは明らかである。
そして,本件要望管理一覧表と本件追加作業一覧表は,それ自体には作業単価や出来高額は記載されていなかったものの,原告は,それまでにもこれらの作業の単価が5万円であることを口頭又はメールで伝えていた上,最終的には,9月12日に本件各書面を被告に提示し,そのうちの本件見積書(甲7)をもって,単価と出来高額を書面化したものである。
以上によれば,本件各書面に記載された本件開発(別紙1)のうち本件開発(8月期)以外のものについては,原告と被告との間で,追加作業であることを前提に,実施すべき作業内容を協議の上取り決め,その内容を原告において書面化し,かつ被告が承諾したものに当たり,本件基本契約4条3項に基づき,原告と被告との間では,本件見積書(甲7)記載の金額をもって、(中略)追加の個別契約が成立していたということができる。
(2) 次に,本件開発(8月期)について検討する。
前記認定のとおり,CとIは,本件システム上のポイント機能とオートシップ機能の修正を追加開発として実施することを決め,Iは,8月18日,追加開発と明示し,作業個数を36人日,単価を1人日10万円,金額を378万円(消費税込み)と記載した見積書を被告に送付し,さらに,8月23日にも,Eからの追加工数の問い合わせに対し,この見積書に言及しながらから,ポイント計算とオートシップのための稼働分として36人日,単価を1人日10万円と回答したところ,被告は,これらの見積書等に対して何ら異議を述べなかった。そして,Aも,9月12日,本件開発(8月期)の金額を378万円と記載した本件見積書(甲7)を被告に提示したところ,被告は,これに対し,同月28日に至って,追加開発分に対する報酬額の確定が難しいなどとして,支払免除を要望したにとどまっているのである。
そうすると,本件開発(8月期)についても,CとIが協議した上,原告側で追加作業として内容を書面化し,被告がこれを承諾したことは他の本件開発(別紙1)と異ならないものであり,やはり本件基本契約4条3項に基づき,378万円(消費税込み)の代金額をもって個別契約が成立したと認めるのが相当である。なお,仮に,9月28日のEの支払免除の要望をもって本件開発(8月期)に係る書面に対する意思表示と理解したとしても,最終の本件各書面の提示からでも5営業日を経過していることは明らかであるから,本件基本契約4条3項ただし書に基づき,本件開発(8月期)につき個別契約が成立したことに相違はないというべきである。
(3) 以上に対し,第1に,被告は,本件開発(別紙1)が本件個別契約の業務の範囲内であると主張する。
しかし,前記認定に係る本件開発(別紙1)の経緯,殊に,被告側の責任者であったEにおいて,9月9日に既に発注した分を除いた見積書の提示をAに求め,これに応じて提示された本件各書面の内容に異論を述べることなく,同月28日,Aに対し,追加開発分の報酬の支払を免除してほしいなどという要望を出したことなどに照らせば,本件開発(別紙1)が本件個別契約の業務の範囲内であるなどということはできず,被告の上記主張は,採用することができない。

<解説>

本件では、システム開発契約が請負契約であると解した上で、請負代金の請求のためには、仕事の完成したか、追加開発契約が成立し、これについても完成したといえるかが問題となっている。今回の事案では、「見積書」や「計画書」などの書面を作成し、それを相手方に示し、相手方からどのような反応があったのかに注目されていることがわかるだろう。「書面に残してください。」というアドバイスをすることが多々ありますが、それは、単に書面を一方的に作成すればいいというものではなく、その書面上で相手方の意思を確認したり、または、こちらの意思表示に対する相手方の回答を確認するところまでを意識しています。そして、作成された書面がより詳細かつ具体的であれば裁判上有利になることは当然のことながら、トラブルにもなりづらいと思われます。

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