お知らせ & 法律相談コラム

瑕疵担保責任に基づく解除の可否(東京高裁平成26年1月15日判決)

<事案の概要>

株式会社aは,控訴人との間で,平成16年4月15日,控訴人の次期情報システム(以下「本件新基幹システム」という。)の開発プロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)について,控訴人を委託者,株式会社aを受託者とする業務委託基本契約を締結した。被控訴人は,平成18年10月1日,株式会社aを吸収合併した。被控訴人ないし株式会社aは,上記業務委託基本契約に係る個別契約に基づいて,本件新基幹システムの要件定義,外部設計を行い,控訴人に対しこれらを納入して,その検収を受け,控訴人からこれらの代金の支払を受けた。
控訴人は,平成20年12月25日,被控訴人との間で,代金額8億9825万5749円として,上記業務委託基本契約に係る個別契約として,本件新基幹システムに係るソフトウェア開発個別契約(以下「本件ソフトウェア開発個別契約」という。)を締結したが,平成21年6月16日,被控訴人に対し,本件ソフトウェア開発個別契約を解除する旨の意思表示をした。

 

<争点>

瑕疵担保責任に基づく解除が認められるか否か

 

<判旨>

「一般に,コンピュータソフトのプログラムには不具合・障害があり得るもので,完成,納入後に不具合・障害が一定程度発生した場合でも,その指摘を受けた後遅滞なく補修ができるならば,瑕疵とはいえない。しかし,その不具合・障害が軽微とは言い難いものがある上に,その数が多く,しかも順次発現してシステムの稼働に支障が生ずるような場合には,システムに欠陥(瑕疵)があるといわなければならない。」(原審判示⇒控訴審でも採用)

「被控訴人の認識においても,上記検収期間終了時である同年6月16日の時点で,本件新基幹システムの補修未了の不具合,障害は31件であり,その他に本件新基幹システムの補修未了の不具合,障害が29件(高1件,中6件,低22件)あって,その補修工数は合計93.4人日要するところ,期間の経過により発現数は減少しているものの,本件新基幹システムの障害・不具合が順次発現していたことに照らせば,同日の時点において,本件新基幹システムに今後どの程度の障害・不具合が生じ,その補修にどの程度掛かるのかについて明らかであったことを認めるに足りる証拠はなく,控訴人及び被控訴人は,同日の時点で,本件新基幹システムに,今後どの程度の障害・不具合が生じ,その補修にどの程度掛かるのかについて,その目途が立たない状態にあったものと認められるのである。
その上,控訴人の現行システムのホストコンピュータの保守期間が同年9月30日に満了するところ,同年8月31日の時点において,少なくとも品質担保対策にその準備期間1か月に加え5か月要し,現行システムとの並行稼働までには更に少なくとも5か月の導入支援期間を要する状態であったことは前記(イ)g判示のとおりであることからすると,仮に同年6月16日における被控訴人の作業の中断がなく,上記準備期間の1か月が不要であったとしても,なお,本件新基幹システムが検収され,現行システムとの並行稼働が可能となる状態になるのは,現行システムのホストコンピュータの保守期間満了から少なくとも半年以上経過した後になると認められるのである。
以上判示の各点を総合すれば,控訴人が上記解除の意思表示をした同年6月16日の時点において,本件新基幹システムは,その瑕疵のために上記検収期間終了時において検収が終了せず,その時期が上記予定よりも大幅に遅れている上,控訴人の現行ホストコンピュータの保守期間が満了後もなお長期間を要する状態になっていたものと認められるのであり,本件ソフトウェア開発個別契約は,本件新基幹システムの瑕疵のために,社会通念上,本件ソフトウェア開発個別契約をした目的を達することができないものと認められる。」

 

<若干の解説>

裁判例が一般論として述べるところは、民法541条但書の該当性判断の際にも参考になるものです。本件は、不具合が重大なものであるか軽微なものであるかではなく、どの程度の障害・不具合が生じその修補にどのくらいの期間を要するのかについて目途が立たなかったことを捉えて契約の目的を達成することができないと判断しました。特に、現行のシステムの保守契約の満了との関係で、開発中のシステム開発契約の目的が達せられるか否かを判断した点は、他のソフトウェア開発との関係でも参考になるものと考えられます。

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