お知らせ & 法律相談コラム

ソフトウェア開発契約が準委任契約とされた事例(令和2年12月22日東京地裁)

ソフトウェア開発においては、当初から具体的にどのような品質や性能等を備えたものを作るのかなどについて必ずしも明らかで無く、それを確定して開発を進めるのでは時季に遅れるという自体がまま存在します。そのため、近年では、ソフトウェア開発契約を請負契約という形では無く、準委任契約という形で契約をし、より柔軟に対処ができるようにする場合がある。本裁判例は、どのような要素が含まれていれば準委任契約と裁判上、認定してくれるのかについて、興味深い一例が示されています。

<事案>
被告代表者は,業務委託基本契約書の文案を作成し,平成29年4月2日,メールに添付して原告に送信しました。同メールには,「今後に向けて,基本契約書を作成しましたので,添付します。NDA(秘密保持)メインで,細則は別途としています。こちらで問題ないようでしたら,署名欄に記載する住所を教えてもらえますか?」との記載がありました。原告は,被告代表者が話していたソフトウェアについてのアイディアを外部に知られたくない趣旨と理解し,同日,被告代表者に返信メールを送りました。同メールには,「契約書,拝読しました。以下,住所です。」との記載に続けて原告の住所が記載されています。原告と被告代表者は,同月中旬頃,本件基本契約書に押印しました。

被告代表者は,原告に対し,開発委託するソフトウェアは,銀行の融資担当者に見せることを予定しており,見栄えをよくするために,まず原告において形を作った上で被告代表者からこれに対する修正の要望を伝えることにしたい旨を述べました。原告は,システムエンジニアとしての経験上,通常のシステム開発は,最終的な完成品の仕様を確定した上で,①システムの性能や運用方法等の要件を定義し,②その要件定義に基づき基本設計を行い,③依頼者と基本設計を共有した上で詳細設計を行い,④詳細設計を基にプログラミングをし(開発),⑤開発終了後にテストを実施するという手順で進めるものと理解していました。これに対し,被告からの委託は,完成品の仕様を決めず,要件定義さえ行うことなく,まず原告が一応のものを作成してその仕掛品に対して適宜被告から修正の要望を受け,その都度同要望を製作過程に反映させていくという内容で,かなり変則的なものでした。それでも原告は,被告代表者の意向を尊重して委託に応じることとし,被告代表者から上記資料を受け取った後,必要な作業の検討を始めました。
原告は,被告から委託を受けたソフトウェアは,要件定義も定められていなかったが,同年11月14日,被告代表者から受領した特許公報等の資料を参照しながらHTMLの編集を開始し,同年12月1日には,画面表示部の祖型の実装を終えて着物の写真を表示させることができるようになりました。原告は,ソフトウェア開発を続け,同月8日には,吉祥文様を表示するエリアの実装等を終え,同表示切り替え,各文様個別の詳細説明の表示等をすることができるようになりました。
被告代表者は,平成30年1月4日以降,原告に対し,メールで仕掛品について修正等の要望を伝え,同年2月12日にはシステムコンセプトを送付した。原告は,前記(ア)のとおり通常のシステム開発とは異なり,完成品の仕様は決められておらず,要件定義さえ定められていなかったので,被告代表者から送られたメールや資料を読解してその趣旨に沿うような実装等を自ら考え,作業を進めていったが,被告代表者の意図を理解できないこともありました。
原告は,次第に本件コンサルティング業務の報酬の支払を負担に感じるようになり,支払も遅れがちであったことから,被告代表者に対し,同年3月中旬頃,週1回のa店訪問を当面の間中止することを申し入れ,さらに,同月下旬頃,報酬の値下げを申し入れるとともに被告によるコンサルティング業務に係る契約の終了時期を尋ねました。そして、原告は,被告に対し,同年4月1日頃,書面で本件基本契約解約の申入れをしました。

<判旨>

本件ソフトウェア開発業務については,①被告の意向により,銀行の融資担当者に見せることを想定して見栄えをよくするために,要件定義,基本設計,詳細設計,開発,テスト実施という通常のシステム開発の手順をあえて踏まずに,完成品の仕様を決めることなく,要件定義も行わないまま,まず原告が一応のものを製作してその仕掛品に対して適宜被告から修正の要望を受け,その都度同要望を製作過程に反映させていくという方法が採用されたこと(前記(1)エ(カ)),②原告は,同方法に従い,被告代表者から送られたメールや資料を読解してその趣旨に沿うような実装等を自ら考え,作業を進めていったが,被告代表者の意図を理解できないこともあったこと(前記(1)エ(イ)),③完成品の仕様が決められていないために,原告において作業の早い段階から進め方に苦慮していたこと(前記(1)エ(イ))が認められる。これらの事実によれば,本件ソフトウェア開発契約においては,最終的に開発を遂げるべきソフトウェアの内容が具体的に確定していなかったものということができるまた,上記のとおり,原被告間において,本件コンサルティング契約の報酬のうち20万円は,本件ソフトウェア開発契約に基づく原告の被告に対する労務の提供をもって支払に代える旨の合意が成立したものと認められるところ,これは,本件ソフトウェア開発業務の対価が開発の進捗や完成度にかかわらず毎月発生することを前提としている。これらの点に鑑みると,本件ソフトウェア開発契約も,改正前民法656条所定の準委任契約に該当すると解すべきである。

 

<解説>

今後は、これまでよりもスピード感や柔軟性が求められることになるシステム開発においては、請負契約の性質を排除し、準委任契約の性質をもった契約も使われる場面が多々存在するようになるものと思われます。そのようなとき、まずは、締結する契約書において上の赤字部分の性質が契約書から読み取れるものであるかについて確認をすべきでしょう。もしそうで無ければ、そのように読み取れるように記載を変更する必要が出てくると思います。

本裁判例は、事例判断ではありますが、裁判所の判断の一つの指針を示すものとして参考になるものと思います。

ページトップへ
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。