ビットコインなどの仮想通貨が登場して以降,急速に利用できる場面が多くなってきています。例えば,ビックカメラやDMM.comなどがあげられます。
仮想通貨の利用場面は今後も拡大するものと考えられます。しかしながら,法的な整備が追いついているとは言い難い場面もあり,そのリスクを考えて賢く利用する必要があります。
資金決済法における仮想通貨
これまで仮想通貨については,定義らしい定義がありませんでした。しかし,近時の資金決済法改正により,仮想通貨について一定の定義がなされました。
もともと,資金決済法は,前払式支払手段(電子マネーがその例),資金移動について規制する業法ですが,そこに仮想通貨についての規制も加えられました。これによって,法律上も仮想通貨の存在を多少は認識したといえるのではないでしょうか。
資金決済法の改正により,仮想通貨について導入されたルールとしては,①仮想通貨の定義規定,②仮想通貨交換業の登録制度,③仮想通貨交換業者による利用者財産の分別管理義務,④仮想通貨利用者保護の規定があります。
もっとも,これで問題が解決したわけではありません。仮想通貨については,まだまだ検討すべき問題点があります。その中でも2つの問題点をご紹介します。
「仮想通貨払い」は通用するか?
そもそも,仮想通貨での支払いは,誰に対しても通用するものなのでしょうか。取引先との間で現金や通常の銀行口座から送金ができないとき,仮想通貨で支払うので勘弁してくれというのが通じるのでしょうか。
残念ながら仮想通貨には強制通用力がありません。強制通用力が認められた通貨や貨幣(例えば,日本銀行券など)であれば決済の際,額面で表示された価値の限度で最終的な決済と認められ,受け取る側がこれを拒むことはできなくなります。
これに対して,仮想通貨には,強制通用力が認められておりませんので,受け取る側が拒絶すれば別の支払方法によるしかないのです。
では,仮想通貨による取引はなぜ成立するのかというと,売り手と買い手などの当事者間において,代金の支払い等を仮想通貨で行うことを合意しているからです。この合意がなければ仮想通貨を幾ら支払ったとしても法的に弁済とは認められません。そのため,他の支払方法によって弁済をするしかないのです。
なお,仮想通貨による支払いが弁済に利用されることがルール化されている取引圏内に入った参加した時点で,そこで行われる取引における弁済は仮想通貨でしましょうという個別の合意が成立しているものとみなされるものと考えられます。
仮想通貨取引所が破産!?仮想通貨は返してもらえる?
仮想通貨を仮想通貨取引所に預けていたところ,取引所が破産等してしまったとしましょう。仮想通貨は,仮想通貨取引所の財産ではないとして,返してもらえるのでしょうか。
かつての判例(最判昭和43年7月11日民集22巻7号1462頁)には,問屋(自己の名をもって他人のために物品の販売又は買い入れをすることを業とする者)が物品を仕入れるのを依頼され,その依頼者のために物品を買い入れた場合,その物品が問屋とその依頼者のいずれの所有物であるかが区別できるのであれば,問屋が破産したとしても依頼者はその物品を返してもらうことができる旨判示したものがあります。
これを踏まえ,金融商品取引法には,金融商品取引業者等(例えば,証券会社)の分離管理義務が規定されており,依頼者の指示や委託に従って買い入れた株式などの金融商品を分別管理しており,金融商品取引業者等の財産と紛れることはないようにされています。そのため,依頼者は,金融商品取引業者等の破産等が生じても株式などの金融商品を返してもらえるのです。
仮想通貨の場合も資金決済法により分離管理義務が要求されており,株式と同様に考えることができるとすれば,仮想通貨も返してもらえるということになります。
しかしながら,仮想通貨であるビットコインについて所有権を基礎とする取戻権の行使を否定する裁判例(東京地判平成27年8月5日判例集未登載【LEX/DB25541521】)も存在しています。もっとも,この裁判例は,あくまで所有権を基礎とする取戻権の行使が否定されたに過ぎませんので,他の法的構成であれば認められる可能性も十分にあり得ます。
仮想通貨を巡る問題は,今後の裁判例及び判例の集積を待たなければ確定的なことはいえません。はっきりしていることは,仮想通貨による取引等を行う際には,上記の様な問題点があることを知った上で利用しなければならないということです。